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なまえのある家「Rupa」

   子が眠るひとときに

 親とは、実に神秘的な言葉です。父と母の両方の意味を含む、ひとつの言葉。父と母は、相反する陰陽のエネルギーの象徴です。つまり、本来、陰陽が和合してこそ、親となるのでしょう。バラバラであったり、陰または陽だけのエネルギーだけでは、親として存在することが難しいのかもしれません。生命が育まれるうえで、この陰陽エネルギーがいかに大切なものか、私達も実感する毎日です。
 近頃、母親だけ、あるいは、父親だけの家庭で、すばらしく育っている子供達と出会う機会が少なくありません。どこから湧き起こってくるのか、彼らの母親または父親は、一人で陰陽両方のエネルギーを発しているように感じます。本気で子供と向き合うことによって、時によって父親となり、母親となり、文字通り、親となるその姿は、子供だけでなく、周囲のすべての人々に対して学びの機会を与えてくれます。
 その一方で、父親がいながら、母親だけが育児の悩みを抱えているケースが多いのも事実です。それは、今の社会にとってあまりにも当たり前すぎて、問題視されることすらないのかもしれません。子供の話題が母親同士だけに独占される、母親達による育児サークル。母親だけを対象とした、様々な育児関連商品のキャッチコピー。現代社会の特徴は、父親不在、つまり陽のエネルギーの欠如であるともいえるのかもしれません。
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 ところで、先人達、或いは、今もネイティヴな生活を守っている人達は、陰陽エネルギーのバランスをとることに細心の注意を払ってきたように思います。例えば、危険が予想される旅に出るときには必ず身につけたという、産土(うぶすな)。産土とは、自分が生まれた土地の砂のことですが、本来は陸と海が交わる砂浜から頂いてきたもの。古来、浜で出産が行われたのも、陰陽のエネルギーのバランスをとるためだったのかもしれません。
 古代神話の例では、苦難が重なったヤマトタケル東征の旅。出立の前、叔母の倭姫は、陽のエネルギーの象徴である剣に、自らの陰のエネルギーを込めて、ヤマトタケルに手渡したのでしょう。
 沖縄では、姉妹が男兄弟を守護するウナリ神としての役割を果たしてきました。彼女達は、男性達が航海に出る際には、自らが織った布を身につけさせたそうです。縦糸と横糸を交えて織る布には、当然、陰陽のエネルギーが込められています。
 人生における数々の苦難から守り、節目節目において穢れを清めてくれる、陰陽のエネルギー。ヤジロベエの如く左右に揺れながら、バランスをとることで達成される自立。子育ての原点は、子供に陰陽エネルギーを存分に注ぐことによって自立を促すことなのでしょうか。
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 ところで、時の権力者によって編纂された古事記や日本書紀では、主人公達に常に受難がつきまといます。黄泉の国に封印されたイザナミ。天界から追放されたスサノオ。強引に戦に赴かされたヤマトタケル。その結果は彼らだけに及ばず、母親または父親を失うという、彼らの子供達が負わされる、より大きな悲劇へとつながっていきます。神話が実社会に及ぼすエネルギーレベルでの影響は、儀礼的な繰り返しという形で現出します。陰陽バランスを失った子供達は、彼らの親が辿らされたように、再び黄泉の世界や戦場へと、容易に駆り出され、追放されていきます。民衆のエネルギーバランスを狂わすことによって、権力者はそのパワーを吸収していくのでしょう。
 昼間、男性が仕事のために家を留守にすることが常識とされている現代社会。しかも、その仕事は戦場のように過酷な競争原理に支配されていることが少なくありません。戦場への追放による親の喪失が、神話時代から今なお脈々と繰り返されている事実を、私はとても残念に感じずにはいられません。男性達の陽のエネルギーを吸い取り続けた闇の存在が、飽和状態に達しかけている、今はそんな時代なのかもしれません。そして、そのようなときこそ、神話をゼロに戻す絶好のチャンスなのです。
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 権力者から押しつけられた神話を解体させるための鍵。それは、身近な幼子に対して陰陽エネルギーを存分に注ぎ込むことに尽きるのかもしれません。例えば、徹底的に親が子供のそばにいること。せめて2歳ぐらいまでの間は、なるべく親子が一緒に過ごすこと。それらを支援する周囲の人間関係。親が離れなくてはいけない状況になったら、隣人がその役割を気軽に果たすことができる、人と人の絆。それはつまり、共同体全体で幼子を育てる、ネイティヴな社会そのものです。育児にとって衣食住は重要です。しかし、それよりも大切なものがあります。親子の人生を左右し、社会そのもを変革させるほどの、かけがえのない体験。平和な世界を実現させるものは、革命や運動ではなく、もっとも小さな存在に対する愛なのではないでしょうか。
 太古から、人は幼子の中に神性を見出してきました。男性性と女性性が、まだ未分化な、両性具有的な純なる存在。陰極まった陽と陽極まった陰の和合によって生み出されたその存在こそが、3次元世界の中で人を親にしてくれる、つまり陰陽の力を授けてくれるのです。父母子、この3種のエネルギーがひとつになって初めて、無から有への創造のエネルギーが立ち上ります。それこそが、三位一体、造化三神と呼ばれるものの実体なのかもしれません。
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 守るべきだと思っていた存在が、実は自分達を守ってくれていた…。夕立の後、涼しさを増した空気の中に溶けていく、伴侶を求めるヒグラシの声。その声がより美しく聞こえる、午後。太古のエネルギーを放つ1歳の我が子が、今、目を覚ましました。神秘に満ちた世界の、ただ中で。


アジア食堂 Rupaからのお知らせ

大和の東北、ここ柳生にて、裏民宿を始めました。奈良盆地の東、奈良、三重、京都に広がる山間部には、巨石に関連する聖地や縄文遺跡が数多く存在しています。このエリアにご縁を感じる方には、お話をお伺いして、関連すると感じられる地へご案内します。お気軽にお問い合せください。 0742-94-0804 rupa@kcn.jp      


*10月3日発売号の雑誌『田舎暮らしの本』(宝島社)に、Rupaの柳生への引っ越しの顛末が掲載されます。カラー8ページで Rupa一家と大和高原の仲間たちが写っています。是非ご笑覧ください。

名前のない新聞 No.132=2005年9・10月号 に掲載