77.  「“大麻”を配りづらい」と神社本庁

 

 天皇制抜きではありえない日本の右翼ナショナリズムにとって、「大麻汚染」は敗戦による「現人神の人間宣言」に次ぐ、第2の受難であり、屈辱であり、敗退である。それがアメリカ合衆国による謀略であると気づかないのか、未だ右翼ナショナリストが「大麻は神聖にして麻薬にあらず、大麻取締法反対」と、街宣車で叫んだのを聞いたことがない。
 黒船出現に対抗して、明治の右翼ナショナリズムは「国家神道と現人神」という一神教プロジェクトを組み、天皇家の祖霊たるアマテラスを祀る伊勢神宮が頒布する「大麻」と呼ぶオフダ(一名神宮大麻)を、全国の神社と家庭に漏れなく頒布し、神棚に祀らせ、「富国強兵」を祈願させ、「神国日本」を洗脳したのである。
 私の幼年時の記憶によれば、毎朝わが家の神棚に向かってパンパンと柏手を打ち、仏壇の前に坐ってチーンと鉦を叩いて礼拝しなければ、朝飯を食わせてもらえなかった。わが家が特に信仰深かったわけではなく、これは日本中の普通の家庭で行われた習慣だった。
 しかし大麻をアマテラスの化身とするこのプロジェクトは、大麻という植物を決して見たり、触ったり、吸ったりすることはなく、「天照皇大神宮」と印刷した紙切れを、神棚に祀るだけというイージーな観念操作に終始したため、恐るべき妄想に狂い、侵略戦争と無条件降伏という無残な結果を招いた。
 かくてアングロサクソンのアメリカによってアマテラスは歴史から抹消され、現人神は人間宣言をされ、神聖な大麻は非合法化され、「大麻汚染」という冒涜的な言葉が生まれた。
 さて、朝日新聞(6月6日版)によれば、4年後に伊勢神宮の式年遷宮というセレモニーを控え、5月に開かれた神社本庁の定例評議会では、「大麻取締法をマリファナ取締法とかに変えてほしい」という提言があったという。
 神社本庁によれば、毎年頒布されている「神宮大麻」のオフダは現在900万体というが、大麻は今や犯罪のイメージと結びつき、神職らも「大麻の頒布です」と大声では言いづらく、頒布が伸び悩んでいるという。
 植物として見る、触る、吸うという大麻のリアリティを知らない右翼ナショナリズムは、「神聖なる大麻」と「麻薬なる大麻」を分離するという、相も変らぬ観念操作を企てているのだ。
 これに対して、摘発した大麻を見て、触って、吸ったことのある麻取り=i厚生労働省・麻薬取締課)は、「大麻は大麻、法律名を変えることは難しい」との見解を示した。
 それにしても、大麻が麻薬ではないことを百も承知の麻取り役人たちが「ダメ、ぜったい!」では、ヤマト魂も切なかろう。
                                   (6.9)


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