71.  朝鮮と大麻の被害妄想

 先日の北朝鮮のロケット実験に対するわが国の異常反応は、まざまざと日本的被害妄想なるものをさらけ出した。
 万に一つも破片が落ちてくることはありえないと言いながら、まるでミサイル防衛の臨戦体制である。例によって、「朝鮮人が攻めて来る」という被害妄想が、日本列島を総毛立て、身構えさせるのだ。
 この被害妄想が関東大震災の時「朝鮮人が井戸に毒を入れた」という噂を生み、数千人の朝鮮人を虐殺したように、容易に日本人を発狂さすのだ。今回もある国会議員が「やられる前に日本も核ミサイルを持つべきだ」と口走ったとか。
 しかし朝鮮人は決して攻めて来ないし、井戸に毒など入れなかった。その被害妄想は朝鮮人を差別し、搾取し、虐待してきた日本人の加害者意識の産物なのである。
 同じようなことが大麻についても言えるようだ。昨年来のどしゃ降り的な大麻弾圧の異常さは、大麻に対する日本的被害妄想によるものに違いない。なぜなら「大麻は麻薬であり、有害である」という論理には「踏み石理論」にせよ「大麻精神病論」にせよ、科学的な根拠は一切無く、被害者は皆無なのだから。ではなぜ日本人は大麻に対する被害妄想を抱くようになったのか?
 大麻は木綿以前から、繊維として、また食料として、民族文化に深く関わってきた。日本人の名前にも、麻子、麻美、麻吉、麻太郎など、麻の字が多く使われているように、それは民衆に深く愛されてきた植物だった。ただしそれは「麻」であって「大麻」ではなかった。
 大麻とは、国語辞典にあるようにその第一義は、伊勢神宮が天照大神のシンボルとして授与する神符のことで、紙切れに「神宮大麻」と印刷したオフダである。
 日本国は明治開国に際し、全国の神社を天皇家の祖神である天照大神の下に統一支配する国家神道をでっち上げ、伊勢神宮が発行する大麻札≠、各神社を通して全国の家庭に授与し、神棚に祀らせた。
 かくて戦前は、全国民が毎日大麻札≠ノ向かって柏手を打ち、礼拝したのである。その結果、神聖なる大麻に鼓舞されて神国日本≠フ誇大妄想に狂い、アジアへの侵略戦争を正当化し、2000万人ものアジアの同胞を虐殺したのである。
 敗戦とGHQマッカーサ指令による大麻取締法の制定は、天皇から国民まで日本人の戦争責任を大麻に押しつけ、戦犯大麻≠非合法処分することだった。日本人を狂わせた元凶である大麻を、アメリカが断罪してくれたのである。大麻はマリファナと訳され、麻薬の濡れ衣を着せられ、大麻汚染≠ニいうマスコミ用語によって、新たな被害妄想の種となった。
 一方、大麻と全く同じものである麻は、戦後も民衆から愛され続け、ヘンプと訳され、ヘンプ・ブームまで起こった。それは北朝鮮をバッシングする一方で、同一民族と知りながら韓国に親しみ、韓流ブームが勃興したのと良く似ている。
 朝鮮と大麻を憎み、韓国と麻を愛するという、同一対象に対して相反する感情を共存するアンビバレンスこそ、国家権力が国民に望む状態である。この種の分裂症的日本人からすれば、朝鮮と韓国が和解して、統一されてはならず、大麻が合法化されて、麻と一緒にされては困るのだ。
 だから、日本列島から朝鮮半島へ大麻の橋を架けて、南と北のスモーカーたちと共に、アジア大陸のガンジャ・ツアーを呼びかける企画は、今のところ実行は不可能である。
                                   (4.29)


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