58. 大麻事件の過剰報道

 若の鵬の逮捕と露鵬、白露山の尿検査による解雇処分、俳優の加勢大周や、慶応大、同志社大、関西大、法政大などの学生たちの逮捕と、今秋の大麻事件は異常なまでにマスコミを騒がせている。
 その極めつきが11月8日夕方7時、NHKテレビのトップニュースで、東京の歯科医師がクリニックの冷蔵庫に、大麻約1グラムを隠し持っていて逮捕されたという報道だ。
 たった1グラムの大麻所持が、週末のゴールデンタイムのトップニュースとなり、被疑者は全国に実名報道されたのである。これが大麻でなくプルトニウムで、被疑者が歯科医師でなくアルカイダ一味というのなら納得もできるが、大麻事件の過剰報道は常軌を逸している。
 アメリカ発の未曾有の金融危機が世界を覆い、変革を唱える新大統領が登場したという緊迫の時に、大麻1グラムの報道の陰で、重要な情報が抹消されているのだ。
 既に90年代から大麻取締法違反の検挙者は、年間2000人以上もいるのだが(昨年は3282件で過去最高)かつては1グラム程度の所持なら公表されることなく、起訴猶予もありえた。しかし最近は0.5グラムでも実名報道されるのだ。
 なぜ今、これほどまでに大麻の取締りが厳しくなり、大麻の「悪」が宣伝されるのか。この異常現象は何に起因するのだろうか。「大麻汚染」などという言葉で国民を洗脳し、大麻アレルギーを植えつけてきたマスコミを駆使して、何が企まれているのか。
 ひょっとしたらこれは、アメリカ大統領選挙と関係があるのではないのか。変革を唱えるオバマ新大統領が、大麻の規制緩和をするのではないかという警戒心が、日本の公権力側にあるのかも知れない。なにしろ大麻取締法のおかげで40年間にもわたって美味しい生活をしてきた官僚たちがいるのだから。
 彼らにすれば、例えアメリカが医療大麻を解禁し、産業用ヘンプの規制緩和をしても、日本の大麻取締法は断固として維持し、既得権益を守りたいに違いない。そのためにはマスコミをフルに利用して、大麻の「悪」をだめ押し的に宣伝して、布石を打っておこうというわけだ。
 70年代にはマスコミを通して、大麻の無害性や有益性を語る進歩的文化人や有名評論家もいたが、今や全員が沈黙してしまった。大麻を「悪」と決めつけたマスコミは、異論を許さないのだ。こうした言論情況の中で『週刊朝日』(10.24)が、「なぜ大麻は『悪』なのか?」という問題提供をした。
 例えば、大麻の種は違法でないように、刑罰も様々だ。欧米諸国では自己使用目的であれば罰しない国や、罰金だけの国も多いが、シンガポールのように500グラム以上の所持では死刑の国もある。
 依存症については厚労省麻薬課の指摘に対して、学者などの反論をのせ「そもそも厚労省には大麻喫煙が人体に与える影響について調査した科学的データがない」という大麻堂オーナーの意見を紹介している。
 これに対して厚労省は「そもそも試験を行うことで被験者に依存が発生した場合、どうするんだという問題があります」だと。
 結論として「大麻使用を法律で規制すべきなのかどうかを、もう一度正しい情報のもとに吟味する必要があると考えます」とあるが、日本では永久にありえないだろう。しかし『週刊朝日』の久々の提起は、ジャーナリズムの本分を全うしたことで、何らかのきっかけになるだろう。
 属国日本がアメリカ仕込みの大麻取締法という悪法を、自力では撤廃できない以上、アメリカの変革に期待するしかない。
 オバマという革新的な次期大統領が誕生し、民主党が上下両院の多数を獲得したことにより、医療大麻の解禁と産業用ヘンプの規制緩和は遅からず実現するだろう。しかしそれだけでは変革とはいえない。医療大麻に関しては既にカリフォルニヤ州など11州が、70年代から解禁しているのだから。にも関らず、カリフォルニヤ州の最高裁で無罪になった医療大麻の使用者を、ブッシュ反動政権は連邦法を持ち出して有罪にしたように、1937年に連邦法で制定した大麻禁止令を廃絶しない限り、真の変革はありえないのだ。
 未曾有の金融危機からアメリカはもはや独力で立直ることは出来ない。ブッシュ政権の採ったような国連無視、ヨーロッパ軽視の一極覇権主義は、国際協調路線にシフトせざるをえないだろう。そこでヨーロッパ、カナダ、オーストラリアなどの大麻先進諸国と対等平等につき合って行くためには、連邦法による大麻規制は撤廃を迫られるだろう。
 と同時に、1961年にアメリカの策動によって制定された国連の「麻薬単一条約」から、大麻を除外することだ。この国際条約によって、インドをはじめ発展途上国の大麻文化は衰退の一途を辿っているのだ。GHQ(アメリカ占領軍)によって封印された日本の大麻文化も然り、アメリカが駆逐してきた大麻の民族文化を復元することは、アメリカの責任であり義務である。
 地上から大麻を絶滅し、大麻文化を滅亡させようとしたアメリカ帝国の謀略は、いま帝国の崩壊を前にして完全に挫折した。
 70年代のマリファナ・ブームの中で、非犯罪化を唱えたカーター大統領でさえ手のつけられなかった連邦法や国際麻薬単一条約の改正を、オバマ新大統領は達成できるだろうか。石油関連産業の巨大な利権が絡む大麻解禁であり、ドラッグ戦争には軍隊まで動員したアメリカである。変革にはテロの危険がいっぱいだ。
                                   (11.11)             


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