54. 角界の「大麻汚染」と「神宮大麻」
 若の鵬が逮捕された8月18日から、起訴猶予で釈放された9月8日まで、22日間の拘留期間中、露鵬、白露山兄弟の尿検査問題を絡めて、マスコミが大麻事件を報じない日は無かった。
 その結果、日本国民の大麻アレルギーは集団ヒステリー状態になって、日本相撲協会を追いつめ、ついに0.368グラムという微量の大麻が起爆剤となって、3人のロシア人力士の力士生命を断ち、北の湖理事長を辞任させ、大相撲の権威と信頼を粉砕してしまった。
 日本国民の大麻アレルギーはマスコミによって洗脳された無知と偏見の産物だが、今回はそれに国技というナショナリズムの排外意識が加わったため、日の丸国技館の神聖な土俵が、外国人力士の汗と尿で「大麻汚染」されるという被害妄想を煽ったのである。
 若の鵬は釈放後のインタビューで、落した財布の中から大麻入りのタバコが発見されても「ばれたら謝って頭を下げたら許してもらえると思った」と言った。彼は財布を落した時、まだ未成年者だった。ところが約2ヶ月後、名古屋場所を経てハタチになったとたんに逮捕され、有無を言わさず解雇されたのだ。
 「悪いこととは思ったが、クビになるとは思わなかった」という彼の言葉は、先進諸国なら常識である。まして尿検査で陽性反応が出たとはいえ、家宅捜査による押収物はなく、刑事事件には該当しないのにクビになった露鵬と白露山には、悪夢のような不条理である。
 ロシアはヨーロッパ先進国並みに、大麻の個人使用を認め、その所持を非犯罪化した国である。従ってロシア出身力士には、大麻に対する罪悪感など無くて当然である。ちなみに先進8ヶ国の中で、大麻所持で逮捕されるのは日本だけである。
 またドーピングに関しては、98年長野冬期オリンピックにてスノボで優勝した選手が、競技後のドーピング検査で大麻の陽性反応が出たため一旦メダルを剥奪されたが、CAS(スポーツ仲裁裁判所)は大麻はドーピングにあたらないとして処分を取り消した。今回の北京オリンピックでも、大麻のドーピング問題は一切無かった。中国には大麻の規制はないから当然のことだが。
 それにしても今回の角界の大麻事件に見せた日本国の官民挙げての大麻アレルギーは、アナクロニズム(時代錯誤)というより、世界に類のない病理現象という感がある。この病理はマスコミの洗脳だけではなく、日の丸国民の集団的無意識の中で形成されたものではないだろうか。
 従って日本相撲協会が外人力士をクビにし、理事長を交替させたくらいで解決するような単純な問題ではない。なぜなら大相撲の殿堂である国技館の神棚には、皇祖天照大神の象徴である「神宮大麻」のお札が祀られているのだから。日の丸国民の大麻アレルギーは、「大麻汚染」と「神宮大麻」のダブル・スタンダードによる集団的無意識のストレスに発しているのである。
 従って真の解決とは、国技館の神棚をとっ払い、千秋楽の天皇杯授与や君が代斉唱を廃止し、主権在民の国技として角界を再生させること。然る後に先進国並みに大麻を解禁する以外にないだろう。
                                   (08.9.11)


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