50. 「タスポ」は拝火教徒の管理だ

  タバコ自販機の成人識別カード「タスポ」なるものが、7月1日から関東地方でも導入された。
 今のところ全国の推計喫煙人口約2600万人のうち、24.6%にあたる641万枚しか発行されていないとか。なにしろカード取得には顔写真と身分証の提示が必要なのだ。
 一方コンビニでは従来通り自由に販売しているのだから、何が目的でこんな面倒なことをするのか理解に苦しむ。しかし国内のタバコ自販機42万台がすべて作り変えられ、何百万枚ものカードが発行されることで、大儲けする天下り役人などがいることは確かだろう。しかし金儲けだけが目的ではあるまい。
 ウルトラ管理社会はタバコを吸うことを登録さすことによって、個人の「火」を管理するのだ。最もプリミティーヴな力であり、また力の象徴でもある火を、個人が所有し、持ち運びが可能になったのは、マッチやライターが発明された近代以降のことであり、それによって喫煙文化が発達したのである。(既に江戸時代にもきざみ煙草は入ってきていたが、まだ一般化していなかった)
 従って煙を吸う文化とは、近代人が獲得した趣味、嗜好であると同時に、それは近代文明に特有のストレスや人間疎外などの毒に対する、心理的、精神的な解毒作用でもあるのだ。いわば喫煙文化とは、近代化した拝火教である。
 喫煙を文化として認めず、単なる「ニコチン中毒」と決めつける人は、「タバコは百害あって一利なし」などと言う。しかし例えば私の親父は決して暗がりではタバコを吸わなかった。タバコを吸う時は電灯をつけて、吐き出す煙のたゆたう姿を眺めなければ、タバコの真の美味さは味わえないというのが、親父の持論だった。
 喫煙は緊張を緩和し、熱狂を冷やし、気分を転換し、文学や芸術や音楽などの創作活動にも協力してきたことを忘れてはならない。生理的、環境的な面からだけ喫煙を批判し、地上からタバコを抹殺しようとするような非文化的、反宗教的な思想には疑問を禁じえない。
 それはまたタバコの煙によってカムフラージュされてきた大麻の煙を、ますます孤立無援にしてしまうだろう。拝火教を管理させてはならない。
 酸素吸入器付きの身になり、10年以上もタバコとは縁を切り、タバコの悪臭に気づき、今は大麻の煙とも無縁な私だが、世の大麻吸いたちが思う存分に肺から煙を吐き出せる日本であってほしいと思う。
                                      (7.3)


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