ふりつづく砂の夜に

 

ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく
時間からの出口はない
びっしょり雨にぬれた宇宙の
記憶にないこの今を
ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく
いつであれ 今生まれたばかり
渦まくかたつむりの秋に
水は静かに燃えている
青いソバの花がゆれている
ほらみんな去年の雪のようにとけ去っていく
でもなえることなく
歩いていく
ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを

ここはどこなのか いつなのか
何もつながらない空の下
こわれかけのベンチにしゃがみ
ぼく自身につまづいたり すべったり
でも離れられないで
ひとつぶの涙の輝きを心に
歩いていく
ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを

こぼれ落ちる光の化石の中にひびきわたる蝉の声
かわいた鮫の眼にうつる白い地球の骨たち
まぼろしがまぼろしを訪ねていく

さびついた犬たちのぼろぼろの息が街を流れる
昼も夜もそびえたつコンクリートと油の山に入りこみ
鉄のきのこをかみつづける
しわくちゃな紫色の空の下
ふりつづく砂の夜に
応えはない
不確しかな青い地球の眼とひげが迷い道のように広がっている

ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく

 
詩集「足がある」SPLASH WORDS より

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