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第22回

「慰安婦」から「日本軍の性奴隷」へ。そして解決の行方。

(ほった さとこ)


 

 「慰安婦」とか「日本軍性奴隷」と呼ばれる女性たちがいる。
 「慰安婦」とは、当時の日本政府の文書で使われていた言葉。1970年代になって「従軍慰安婦」という言葉も生まれたんだけど、どちらにせよ、慰安なんてきれいごとだ。いまは「日本軍性奴隷制」や「戦時性暴力被害者」という言葉も使われるようになってきた。
 もう、第2次世界大戦中の日本軍による性奴隷を知らない人が多いのかもしれない。いまの教科書から「慰安婦」はほぼ削除されているしね。日本軍の性奴隷とは、軍人や兵士の一方的なセックスの相手として戦地にある慰安所に集められた女たちのことだ。韓国や朝鮮の人が多くて、日本の占領国や戦地の地元民もいた。その中には精神を病んだり体を壊した人、妊娠させられた人、敗戦直後、口封じに殺された人たちなどがたくさんいる。戦争では生き残っても、この体験を忘れられる人などいないだろう。慰安所は、上海や南京、タイ、香港、フィリピン、ビルマ、インドネシアなどに作られて、沖縄だけで130カ所以上あったという学者もいる。
 戦後何10年も、公な場で日本軍による性奴隷について語られることはなかったけれど、 '88いのちのまつりの年、韓国の女性団体は日本軍の慰安所設置について調査をはじめた。翌年には韓国・廬泰愚大統領が訪日して、国会で慰安婦問題の調査を求めて、それ以降、韓国と日本政府の間で慰安婦問題のやりとりが始まった。でも日本政府の対応や見解に韓国政府は納得できなかった。
 '93に日本政府は第2次調査を行って、河野洋平官房長官(当時)が談話として、正式に慰安婦問題について謝罪をした。内容は、(1)戦時中に当時の軍当局の要請によって数多くの慰安所が設置された。(2)慰安婦や管理、移送についても、日本軍が直接か間接的に関与していた。(3)慰安婦の募集は、主に軍の要請を受けた業者が当たり、本人の意思に反して集められた事例が数多くあった。(4)慰安所の生活は、強制的な状況の下で痛ましいものであった。(5)われわれは、このような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を表明する、というものだった。
 そして'95に日本政府は、財団法人「女性のためのアジア平和国民基金」を設立した。国民にも募金を呼びかけて、老いを迎えつつある慰安婦たちへ、内閣総理大臣のお詫びの手紙と共に「償い金」を支給。医療福祉支援事業も進めた。でも一部の人しか対象にならなかったし、国からの謝罪と賠償を求めたいと辞退した人も多かった。今年3月31日にこの団体は解散している。
 こういう流れの中で、すっきりしないまま日本軍の性奴隷問題は忘れられていくのかと思えば、そうではないのだ。前首相安倍晋三さんによる河野談話を無視した発言などから、今年5月に国連拷問禁止委員会で、日本が1999年に批准した拷問禁止条約の義務のいくつかに反すると勧告。アメリカ合衆国の下院では9月、慰安婦問題に関して日本政府の責任を求め、反省することを促す決議案が採択された。11月はオランダとカナダの下院で日本政府に被害者全員に誠意ある謝罪を求める決議案が全会一致で採択、今月は欧州連合(EU)の欧州議会でもほぼ同様の決議が採択された。
 当事国である日本では、社会民主党の国会議員である辻本清美さんが、安倍晋三首相(当時)や福田康夫首相に質問主意書を出し続けていて(それらの答弁も含めて辻本清美さんの公式WEBサイトに掲載してある)、日本政府は'93の河野談話が公式見解と答えている。
 お詫びはとうの昔にしたんだし、国の予算を使って財団法人を作ったじゃないかー、日本以外でも慰安所を設置していた国があるだろう!と逃げるのがいいのか、真摯な態度で、事実を認め、政府として出来ることを進めていく道を選ぶのか。わたしは後者を指示します。
 それから、この原稿を読んでくれた人のこころの中に、この女性たちのほっとできる場所が生まれることを願います。

山梨県、北富士演習場の秋。自衛隊の演習に使われた壁の穴からススキと富士山が光る。 by ほったさとこ


 今回、名前のない新聞が第2期の?20周年を迎える!とのことで、慰安婦、性奴隷問題について書きました。'88前後から政府間で問題が公になって、20年の時間が経たいまも解決せず、多くの女性たちの涙、苦しみ、悲しみ、痛み、さみしさは深まるばかり。
 編集長のあぱっちは、わたしの原稿を尊重してくれます。あえて差別用語を使うときもあるし、メディアで避ける題材も結果として多いんだけど、いつもどうもありがとう。感謝してまーす。



No.146=2008年1・2月号

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