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『どうぶつたちへのレクイエム』

児玉小枝著/日本出版社刊

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 「動物は人間といっしょに生きているのに、すてたりころしたりするのは、人間をころしているのといっしょのように感じました」「前に国語で、人類はすばらしいはってんをとげてきたと書いていました。それだけでえらいと言えるなんて、なんだか変だと思います」「わたしのおかあさんは、『いのちはみんなおなじ』といっていました。すてたりするなんて、もったいないことです」。──これらは、人間に捨てられ、自治体の動物収容施設で“死”(殺処分)を待つ犬猫たちの最期の肖像を写した写真展『どうぶつたちへのレクイエム』を見に来てくれた小学生たちの感想文です。
 写真を撮り始めたのは1997年の春、「犬(死)」と貼り紙をされ、ゴミ袋に入れて捨てられていた犬の亡骸に出逢ったことがきっかけでした。その日から、言葉を持たないどうぶつたちの代弁者として、自分にできることについて考え始めました。翌年の春、大阪の小さな喫茶店で初の写真展を開催。以後今日まで、本展の主旨に賛同くださる方たちのご協力を得て、全国各地で巡回展示をしていただいています。そしてこの度、2000年に上梓した同題の写真集に新たな写真と文章を加えた『どうぶつたちへのレクイエム』のリニューアル版を出版させていただくことができました。本書を通じて、さらに多くの方たちの心に、言葉を持たないどうぶつたちの声なき声が届くよう願っています。
 近年、“ペットブーム”と言われ、全国の家庭では2000万頭以上の犬猫が飼われています。その一方、「引っ越しする」「子犬(子猫)が産まれた」「世話が大変」など様々な理由で、年間40万頭以上の犬猫が捨てられ、ガス室で“殺処分”されています。「可燃ゴミ」「缶・ビン」等と同様に、犬猫の「命」までも不用になれば廃棄するというシステムが、ここ日本には存在しているのです。
 冒頭でご紹介したように、「命を大切にしなさい」「思いやりの心をもちなさい」と語る大人が、社会や家庭の中で最も弱い存在である犬や猫の命をいとも簡単に見殺しにしてしまう姿を、子どもたちは悲しい瞳で見つめています。そんな大人の背中から発せられるのは、「自分に不都合な命は殺してよい」「他者の気持ちを思いやる必要はない」であり、さらには「お前も強者になれ」「自分に不利なことには手を出すな」「か弱き命に手を差し伸べるなど愚か者のすることだ」というメッセージにほかなりません。
 非暴力・不服従主義を提唱し、インド独立の父と呼ばれるマハトマ・ガンジーは、こんな言葉を残しています。「国家の偉大さや道徳的水準は、その国で動物がどのように扱われているかによって判断できる」。
 現在の日本は、動物福祉精神の発達した欧米の国の人たちから、先進国の中でまれにみる「動物虐待国」だと、ありがたくないレッテルを貼られていますが、一昔前は違いました。江戸時代、日本に来た外国人は、一様に驚いたといいます。道ばたで、野良犬や野良猫が、あまりにも自由気ままに歩いていたり寝そべったりしていて、町行く人々もそれを当然のことのように受け入れていると。その外国人が、試しに、その犬猫に石を投げるそぶりをしてみたところ、一向に怯えたり逃げたりする様子がなかったと。この国の犬猫たちは、人間に虐められたことがないのか、と感心したというエピソードがあるそうです。 
 そんな風にゆったりとした動物と人との共生関係が崩れたのは、明治時代のことでした。明治6年、狂犬病により9名の死者が出たのをきっかけに、東京都が、日本で初めての「東京都畜犬規制」を発布しました。今の「狂犬病予防法」の原型です。それ以来、全国的に放し飼いの犬が捕獲され、処分されるようになりました(ちなみに国内では1957年以降、狂犬病の発生はありません)。その後、行政が、捨て犬・捨て猫の防止策として、“不用”になった飼い犬・飼い猫の「引き取り」業務を始め、飼い主たちは、家族の一員であったはずの犬猫を保健所に持ち込み、殺処分するようになったわけです。
 捨て犬、捨て猫、動物虐待など、動物に関する様々な問題の影には、児童虐待、少年犯罪の凶悪化や低年齢化、家庭内暴力など、人の心や人間関係の問題が潜んでいると言われています。アメリカの著名な動物愛護団体のひとつである『マサチューセッツ虐待防止協会』の創設者が、教育者を前にして「もし子どもに、動物に対して優しく接することを教えることができれば、彼らはきっと、人間に対しても親切になっていくに違いない」と語っていますが、それは、まさに、自分よりも弱い存在である動物をいたわる優しい心が、対人間に関しても反映されるからだと思います。そういう観点からも、動物の命を大切にすることは、これからの日本を創っていく子どもたちの命を、ひいては日本人全体の命を大切にすることにつながるものだと思います。動物好きな人にも、そうでない人にも、ぜひ拙著をご覧いただき、身近に生きている小さな命のことを見つめ直し、彼らとのつき合い方を考え直すきっかけにしていただければ幸いです。

<写真集>「どうぶつたちへのレクイエム」
(児玉小枝著/日本出版社刊/1260円/A5版/p128/2005.2.9発売/一般書店で取扱)
写真集に加えて、巻末には「小さな命を守るために私たちにできること」12項目を掲載しています。
詳しくは、ホームページhttp://www1.u-netsurf.ne.jp/~s-kodama/ をご覧ください。

<写真集出版記念写真展>
●会期 2005年3月30日(水)〜4月4日(月)  
  11時〜18時(最終日は17時まで)
●会場 ギャラリースペース「TOO」 
  (大阪市北区神山町9-25 YWCA横)
●交通 「梅田」より徒歩10分、地下鉄「扇町」より徒  歩5分 ※入場無料




No.129=2005年3・4月号

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