平成流人日誌(2)「犬との暮らし」



 都会の借家ぐらしで犬をかうのはムリだとあきらめていたが、島に移り住むことになり、ぜひ犬をかいたいと思った。

 保健所に「保護」された捨て犬は殺される運命にある、ということを前から聞いていたので、もし犬をかうならせめて一匹でも殺されないですむよう、保健所からもらおうと決めていた。だからといって何匹でもひきとろうとか、どんな犬でもかまわないというほどの博愛主義者ではない。やっぱりかわいい子犬をかってみたかったし、犬は最初のしつけが肝心と言うので、保健所には子犬が保護されたら教えて下さいと頼んでおいた。
 そして、縁があってうちにやってきたのが、我が家の愛犬アヤだ。
 最初のうちはずいぶん手こずらされた。何度も何度も外に脱走し、そのたびに探し回ったり、いろんなものをかじったり、あわてさせられる日々が続いた。けれども愛情豊かに?育ったせいか、だんだん聞き分けが良くなり、お手や伏せも覚え、東京から連れてきた先輩の猫には決して手を出さないかわりに、近所の野良猫には腹いせなのか?威勢よくほえかかって、番犬の役割もしてくれる。

 現在5才になるから、人間で言えばお年頃の女盛りだろうか。申し訳ないことに一度も子供を産まないまま避妊手術をしてしまった。でも、ときどき近所の雄犬たちが家を脱走して遊びに来るから、きっと犬から見ても美人なんだろう。

 問題といえば、ほんの少し甘やかしすぎたこと。すぐに寂しがってキュンキュン鳴くのでうるさいし、車で出かけるときに自分だけ置いて行かれるとわかると、がっくりと肩を落としてせつなそうに見送る姿は実にかわいい。また人間が何か食べていると、そばで食い入るような目で見つめられるので、ついついお裾分けをしてしまう。そのため最近ちょっと太り気味で、以前のきゅっと引き締まった細い腰が懐かしい。

 人間様は田舎暮らしをはじめても、相変わらず都会ペースが抜けずに夜更かし・朝寝の毎日で、おまけにどこに行くにも車を使うので、足腰が退化しつつある。でもなんとか健康を保っていられるのは、毎日2回、アヤに連れられて散歩しているからだろう。

 うちは末吉という島の中でも末にある集落の、さらに末の村はずれにあり、ちょっと歩くとすぐに畑や山になる。散歩コースの農道ではほとんど誰とも出会わないので、アヤものびのびと気持ち良さそうだ。

 3月も半ばの今は、お天気がいいと汗ばむほど。道ばたには野生化した黄色いフリージアの花が咲き、またアシタバの芽が勢いよくのびて一番おいしい時期だ。人間がアシタバ採りに忙しいと、アヤは勝手に草っぱらでごろごろ転げ回ったり、ヤギの餌用においてある芋をくわえて遊んだり、イタチが出れば大喜びで突進したりと、見ているだけでも幸せになる。

 犬と一緒の田舎暮らし‥‥いいですよ〜!(浜田)




八丈島の部屋